『ディア・ハンター』1978年アメリカ 監督:マイケル・チミノ 主演:ロバート・デ・ニーロ
『ディア・ハンター』は、ベトナム戦争を題材とした映画で、戦争映画の傑作として大きな評価を得ている一方、ベトコンを悪者扱いにした、偏向した描き方をしている等の、批判も割とあるようです。けれどもこの映画は戦場でのシーンは少なく、大半が主人公達の住む田舎町でのシーンであり、戦争を軸に話が展開すると言うよりは、主人公を含む三人の男の、ベトナム行きを間近に控えた状態と、ベトナムを経験した後の状態の変化に、重点が置かれて展開していると言えます。田舎の若者達にとって「戦争」は、誇りを持つためや認められるための「試練」みたいに最初は捉えられているのですが、実際の戦場で「試練」というには酷すぎる体験をしてしまい、それによって彼らが変わっていく様が、丹念に描かれているように思えるので、『ディア・ハンター』は“戦争もの”という映画とは、少し違うのかも知れません。 僕が初めて見たのは十代の終わり位の頃で、「もしも自分がこういう風に、戦場に行く事になったなら……」みたいに思いながら、この映画の主人公の、寡黙であり恥ずかしがり屋、しかし思い込みが割と激しく、ナルシスト的なカッコつけの一面もあり、でも戦場では一番冷静で勇敢であった、デニーロ演じるマイケルに、思いっ切り感情移入しながら見るという、だいぶ青臭い見方をした記憶があります。一番の見所と言えるロシアンルーレットのシーンでは、体をプルプル震わしながら、デニーロと一緒に呻いたり泣いたりいたしました。その明くる日には色んな人に、「『ディア・ハンター』を見るべきだ」と言い回り、だけど幾日か経っても誰も見てなかったので、「何で見ないの!」と少し怒ったりして、皆に煙たがられた思い出もあります。 今回久し振りにこの映画を見て、デニーロ演じるマイケルと、クリストファー・ウォーケン演じるニックの、安易な言い方をすれば「熱き友情」みたいなものに、改めて打たれてしまったのですが、この友情みたいなものについて、安易な言い方はせずにもっと考察してみれば、マイケルとニックの間には、友情のレベルを超えたものが存在していると思われ、二人は精神的な関係においてホモだと言っても過言ではなく、「熱き友情」というより「ホモ情」というのが近いように思えます。異性である女には共有する事が不可能な、男と男の間で流れる、太く、真っ直ぐな思いがそこにあり、例えばラスト近くのシーンの、そういう思いに突き動かされた、ニックの救出を試みるマイケルなどには、打ちのめされずにいられません。 『ディア・ハンター』の他に、そういう男同士の関係が見られる映画として、勝新太郎と田村高廣が出演の『兵隊やくざ』が思い浮かびました。この映画も好きな映画だし、前に書いた『BROTHER』でも、そんな男同士が見られます。つまり“男と男の友情を超えた関係”が描かれているものを、僕は好んでよく見ている訳で、そんな自分の好みの傾向に、ちょっと複雑な心境であります。 |