『GERRY』2002年アメリカ 監督:ガス・ヴァン・サント 脚本&主演:マット・デイモン
                                        ケイシー・アフレック
 


 主演のマット・デイモンという俳優には、昔たまたま見たワイドショーのハリウッド・ゴシップニュースを根拠として、ちょっといけ好かない男優みたいな、あまり良い印象を持ってなく、そんな彼と彼の親友ベン・アフレックが主演と脚本を担当し、ガス・ヴァン・サントが監督した、1997年の作品『グッド・ウィル・ハンティング』も、表面的にリアリティーを装った、愛と感動主義の偽善ファンタジーみたいな、あまり良い印象を持ってなく、しかしマット・デイモンと、親友ベンの弟ケイシー・アフレックが、主演と脚本を担当し、『グッド・ウィル・ハンティング』と同じガス監督の『GERRY(ジェリー)』を見た時、そんなマットを軸とした映画仲間の良くない印象が、完全に一新されました。今までマットに対して持っていたのは、「カッコつけたセレブ気取り」というイメージでしたが、それとは真逆の人じゃないと、こういう映画は作れないという風に感じたからです。

 感動の名作と呼ばれたりする『グッド・ウィル・ハンティング』なんかより、『GERRY』は評価されるべきだと思うのですけれども、もし誰かに面白かったのかと率直に問われれば、答えに詰まってしまう気がし、またもし『GERRY』と『グッド〜』のどっちが退屈だったかと問われれば、これはもう前者であると、ハッキリ断言しても良い位で、僕はこの映画を見ながら、今日の夕飯は何にしようとか、明日は何時起きだっけ?とか考え、更にはこの映画の次は何の映画を見る事にしようか考えたりし、『GERRY』を見ながら別の作品に思いを馳せるといった、浮気に似た事をしてしまいました。しかしそれほど退屈だったにもかかわらず、見終えて強烈に印象が残ったという、驚くべき体験を、僕はこの映画でさせられたのです。

 きっと『GERRY』を見た人達の多くは、退屈を感じただろうと思えまして、それはまずストーリーを述べてみれば、自然公園みたいな所をハイキングする二人組(マットとアフレック)が、ちょっと観光ルートを外れて歩いてみようと、道なき道をしばらく歩いたところ、方向を見失って迷ってしまい、観光ルートに戻ろうとするも、更に迷って戻れない……というものですが、ラストまでに進行するストーリーと言えるのは、たったそれだけのシンプルなものであり、そして展開するシーンも、二人しか登場しないシーンがずっと続き、自然の中を男二人が延々と歩くだけのような、賑やかさの無い、華やかさの無いシーンばかりで、娯楽性というものがまるで感じられず、飽きたり眠くなったりせざるを得ないと言えます。しかしもちろんこの娯楽性の無さは作り手が強く意識したものと考えられ、エンターテイメントとは反対に位置する所で、我々は表現のため戦いますと言わんばかりに、ついて来ようと来れまいと、観客を思い切り突き放し、見て何を感じるかは、めいめいの見方にお任せしますといった、とても潔い性格の映画であるように思われます。

 ですので見る人の主観によって、この作品の理解の仕方が違うだろうと考えられ、例えば自然の厳しさを描いているとか、あるいは少しの不注意が最悪の事態を招くという、恐ろしさを描いているとか、様々な解釈があるように思えます。僕が重点を置いて見たのは、友人二人の関係性の変化で、おそらく元々この二人は、同じ価値観を共有しているような親しい友人関係で、観光ルートを外れてからも、始めは呑気に雑談をしたり、能天気にからかい合ったりしてますが、途中から平地を進むべきか高地を進むべきか等で意見が割れたり、お互いに無言になって会話がなくなったりし、そして進むべき道を見失って、途方に暮れて行くにつれ、二人の間に完全にズレが生まれてしまいます。観光ルートを「安心して安全に平凡に生きて行く道」と比喩すれば、僕はここに、そういう真っ当な道を外れ、道なき道を進んで生きて行く事の難しさを見てしまい、それからまた、同じ価値観を共有してたはずの二人でも、問題に直面し、相手と濃く接する時間が長く続けば、二人に隔たりが生じざるを得ないという、リアルな人間関係を見てしまいました。そして、どうしてこんな事になったのかと、絶望的になって座り込む二人の周りには、そんな絶望なんか知ったこっちゃないという風に、きれいな青空があっけらかんと広がっており、自然の容赦の無さや厳しさを思い知らされ、更に言うと絶望する人間の姿と、人間を一顧だにしない自然の姿に、悲しさを覚えつつも呆然と見とれてしまう、美しさというものを強く感じたのです。

 今回これを書くにあたって、『GERRY』を改めて見たところ、途中10回位ウトウトしてしまいました。しかし退屈させる分、力を蓄え見事に反転させる、やはり驚くべき映画でした。









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