2006.4

  今年は年明けから大きい事件が続きまして、「偽装」「粉飾」「捏造」等を、新聞雑誌類でよく目にしました。悪い人は罰せられるのが当然ですが、報道するテレビをボンヤリ見ながら思い出したのは、以前読んだブラックジョーク・ベストセレクトみたいな本にあった、「世の中から悪が絶えれば、警察弁護士裁判官記者、彼ら全員職にあぶれる。つまり奴らは悪の寄生虫の如きものだ」という、僕の好みなジョークでありますが、これは見事な冗談である一方、かなりフザけた発想で、当たり前ですが屁理屈であります。

 最近僕が働いた、悪事と言えなくもない行動を述べますと、まず路上喫煙が挙げられまして、たまに通り掛かりの見知らぬオバさんに、「タバコだめ!」とお叱りを受けたり、その他バイトでポストにピザや不動産のチラシを配っていて、「ゴミを入れるな!」「不法侵入!」とマンション管理人に叱られたりしてまして、タバコは人込みを避けて吸っていたとしても、健康増進法違反な様ですし、郵便や新聞用のポストにチラシを入れれば、確かにゴミになるし迷惑であります。

 タバコの煙がダメなら車の排気ガスもダメなはずだろっというのが僕の昔の意見でしたが、今考えればこれはやっぱり屁理屈だった気がします。しかしチラシに関して言いますと、例えば新聞にドッサリ折り込まれた広告チラシは認められ、何故チラシのみの投函が許されないのか、またマンションの共用玄関や廊下を歩くだけの事が何で不法侵入なのか等の、納得出来ない点があり、この意見は屁理屈ではない気が致します。

 タバコについて繰り返しますが、いま喫煙者の肩身はどんどん強引に狭められている状況です。けれども僕は別に、禁煙を讃美する者共の、傲慢無礼不躾を、糾弾せよっとウソブきたいのではありません。逆に禁煙側に立った時の話をここで致しますと、僕は以前駅の通勤ラッシュ時に、ホームで駅員を補助するアルバイトをやってまして、その時間帯は禁煙タイムに当たりますから、もし吸う人がいればお断りするよう指示を受けていました。毎日数人程のマナー違反者がいたのですが、ほとんどの人はお願いすれば素直に消してくれました。けれども中には腹を立てるスモーカーもいて、一度「いま周りに人いねぇじゃねぇか。どこが迷惑なんだコノヤロー」と怒鳴られた事がありました。確かにその人の言う通り、その時ホームは混雑してなく周りに迷惑でもありません。しかし僕の立場からすれば禁煙タイムをキープさせねばならず、また他の乗客から「タバコ吸ってる奴がいるよう」と告げ口風のクレームが来る事もありますから、見過ごす訳にはいきません。結局すぐに電車が来たので、その人はプリプリしながらタバコを揉み消し、プンプンしながら乗車しました。一方怒鳴
られた僕も多少ムッとしていたのですが、振り返って考えてみれば、自分も愛煙家ですからその人の理屈が分からなくはなく、僕も相手もお互いに立場が反対なだけで、どちらも間違ってはなかった様な気がします。

 誰でもそれぞれ個人的な事情を抱えている訳で、お互いのその正当性が対立した時に争いが起きたり、また自分の事情に完全に呑まれ、偏った方向へ行き過ぎる時、罪を犯したりするのではと考えるのですが、犯罪について会社ぐるみのものは特にそうなはずで、客観的判断を欠いて自分を見失い、悪事を働いてしまった例も多いだろうと思います。しかしテレビのニュースやワイドショーなどでは、ほとんど犯罪者イコール悪人のパターンで報道されてしまいまして、この伝え方に僕は違和感を持つ時があり、それは大人の社会と少しでも関わった事がある人なら皆、何が悪事かという問題に、簡単に答えられないはずだと思うからです。

 子供じゃない年齢になれば普通、自分の人生を築くために、あるいは築けとプレッシャーがかかるために、会社組織等の人間関係の中に参加します。組織には必ず内部事情みたいなものがありますから、公表しない方がいいものは隠される訳で、これはいわゆる表と裏、建前と本音というのに近いのかも知れません。具体的に述べますと、建設関係だけではなく、サービス業なら実際行ったサービスより多く見積もって請求したり、小売業なら商品の実質より高価に装って売り上げたりなど、この種のやり口は珍しい事ではないはずです。そしてこれらは出来るだけ楽に稼ぎたいための行動だとは言い切れず、むしろ逆に利益を取られず潰すまいとする、組織や組織人としての自分の存亡を賭けた、必死な行動のケースが多いという方が、当てはまる様な気がします。更に言えば、社会人になる心構えを持って組織に所属し、その集団の常識にのっとり勤務する中で、自分個人をある程度見失うのは仕方なく、まして組織自体を否定する事など難しいに違いありません。

 もちろん罪人は罪人として戒められねばなりませんけれども、善人の代表の様な顔でテレビに出てる、頭良さげなコメンテーターも、自分とは違う人種を見る様な目で犯人を見る、テレビの前の視聴者も、もし自分が犯人と立場に置かれたら同じ罪を犯す可能性はあるはずです。そしてまた、自分たちは善人であると思い込む人たちが、自らがより都合良く守られる様な世の中を作ろうとする傾向は、利益を過度に求める悪質企業のそれと似てなくもなく、やはり人間が善人と悪人にハッキリ分かれるという様な考えは間違いだろうと思います。

 意地悪な心を全く持たない人なんか、アニメとかの世界しかいない訳で、誰でも善人であり悪人であります。当然僕もそうなのですが、むろん自分がホシになり、ワッパかけられカンゴクいったりなどはゴメンをこうむりたいですので、充分注意したいと思っております。