2015 12 師走の厠

今年は暖冬と言われてますが、それなりに寒くなって来ました。


なつかしき冬の朝かな。
湯を飲めば、
湯気がやはらかに、顔にかかれり。


吸ふごとに
鼻がぴたりと凍りつく
寒き空気を吸いたくなりぬ  (石川啄木)


戸外で働く外勤の人達(僕もそうです)にとって冬の愉しみは、ホットの缶コーヒーを自販機で買って飲み、その温もりが喉のなかを通っていき、そして冷え切った鼻のなかを、その薫りが抜けていくような、あたたかみを味わう一服のひと時です。しかし留意せねばならないのは、この時期すぐに尿意をもよおす点で、コンビニ等トイレを借用できる店や施設の無いエリアに、もし公園の公衆便所があれば、もよおした人達でそこは奪い合いになってしまいます。先日僕も新宿のある公園のトイレ(一人用のボックス型)に行き、使用中だったので付近で空くのを待っていました。少しよそ見をした間に、ドアが開いて人が出て来たのですが、小走りして来た作業服の年配の男が、空くやいなや割り込んで、素早くトイレを奪いました。僕はこらえてちゃんと待っていた訳なので、出て来たら平手打ちの一発でもお見舞いしようかと考えましたが、僕より差し迫っていたのかも知れないとも考え、平手打ちは自重しました。屋外で仕事をする人々は、寒さを肌で感じると言うよりも、膀胱で感じると言って良いでしょう。


すがた見の
息のくもりに消されたる
酔ひのうるみの眸(まみ)のかなしさ


石ひとつ
坂をくだるがごとくにも
我けふの日に到り着きたる


先日夜遅くに電車で帰宅していて、降車して駅のトイレに行ったのですが、忘年会の時期のせいか、酔いの回った乗客が何人もいました。そのうちの一人、スーツの中年の男は出口付近の手洗い場で、蛇口の両脇に手をついて、正面の鏡に映った自分の顔を、とろんとした目でじっと見つめていました。その姿にはうら悲しさがあり、「ああ、今年も何だか嫌になるほど、あっという間に終わってしまった」と、勝手にその気持ちを推察しました。この師走、僕もそう思っていたからです。